中台で違う中国語その2〜習慣編〜

中国語

前回は、中国と台湾で話される中国語の発音面の違いについて書きました。
今回は習慣面の違いについて、僕自身が感じたことをご紹介しようと思います。

ここで習慣面と呼んでいるのは、表現方法や漢字の読み方、物の名前などです。

習慣面の違い

教科書や授業で習わない表現を使う

中国の中国語は、特にニュース原稿や国のお偉いさんの発言など、改まったものになればなるほど、誰が読んでも一通りの解釈しかできないような、ロジックが明確な文章になっています。

また「虽然」「因为」「如果」「不但」などの关联词が随所に使われることで、読み手(or聴き手)に文の続きを予想させながら進んでいく傾向が顕著です。

そして使われる文法は、全て私たち外国人が教科書で習うもの。
センテンスを数式に例えると、習う文法は数式を解くための公式であり、改まった文章は基本的にこれらの公式で解けるようにしか書かれていません。
なので、習った文法の知識を当てはめれば、改まった文章で読めないものはないと思います。
その意味で中国のニュースを読むのは難しくありません。

これに対し台湾の中国語は、(中国式で習う)文法の知識だけでは理解できないことがよくあり、「聴いた内容を一語一句正確に書き出せるけど、全体の意味が分からない」という状態になります。

例えば今年(2021年)10月10日の蔡英文総統のスピーチの中に、こんな一節が登場しました。

「我也要再一次謝謝我們醫護人員的辛勞,我更要再一次謝謝所有的台灣人民,在如此困難的時刻,是大家的團結,守住了我們的國家」

中国式の頭で理解しようとすると、「在如此困難的時刻」まで読んだ(or聴いた)時点で「次は『台湾人民が何をしたか』が来るな」と予想してしまいがちです。

ところが続きは「是大家的團結」。
ここに来ると「A是B」の文型が自動的に脳内で呼び出されて
「『在如此困難的時刻』=『大家的團結』ってどういうこと?」
と混乱し始めます。

続いて「守住了我們的國家」が出てくると、「この部分の主語が出てきてないんだけど!?」と更に混乱してしまいます。

この一節を理解する鍵は、「是」が「A是B」のように前後を結ぶものではなく、後ろだけに影響を与えていることが分かるかどうか。

「大家的團結,守住了我們的國家」なら、「皆さんの団結が私たちの国を守りました」とすんなり理解できると思います。
この文の頭に「是」がつくことで、「皆さんの団結が私たちの国を守ったのです」という強調の意味が追加された表現になっているんですね。

因みにこのような「是」の使い方は、台湾式の中国語を勉強していれば授業で習うんでしょうか?
少なくとも僕は中国式の中国語に10年近く触れていて、この使い方を目にしたことはありませんでした。

中国式で勉強してきた人が台湾式の中国語を分かるようになるには、機械的に文法を当てはめるだけでは解けないということを知った上で、台湾の表現にたくさん触れるしかないと思います。

因みに、僕が台湾式の中国語に切り替える中で一番時間がかかったのがこれでした。
最初は上にも書いたような
「聴いた内容を一語一句書き出せるけど、全体の意味が分からない」
という状態からなかなか抜け出せず、歯痒い思いをしたのを覚えています。
中国の文章は難なく読めるようになっていたので余計ショックだったと同時に、中国語を改めて外国語として感じました。

経験を表す「有」を多用する

例えば
「私は台湾に行ったことがある」
を中国式で言うと

「我去过台湾」

となりますが、台湾では

「我去過台灣」

と言われることが多いです。
台湾で中国式を使っても間違ではありませんが、「有」が付け足されることが多いです。

一説では日本統治時代、日本語の「〜したことが『ある』」が中国語に反映されて、台湾でも経験を表す時に「有」を使うようになった、と言われていますが、本当のところは分かりません。

「有」はこのように「〜したことがある」以外にも
「確かに〜した」
「恒常的に〜している」
という意味でも使われます。

例えば
「我今天也學中文」(確かに〜した)
「我平時都運動」(恒常的に〜している)
など。

名詞の形容詞化・動詞化が多い

中国でも
「很中国」
「很男人」
のように、一部の名詞が形容詞化することがあります。
台湾ではこんなのは当たり前。

逆に台湾で使われて中国では見たことがない(少なくともパッと思いつかない)のが、名詞の動詞化です。

以前よく中央社のネット記事を見ていた時期があり、そこで衝撃を受けたのが

「民進黨曾經執政黨過

という表現。
(一字一句このとおりではなかったかもしれませんが、文の構造はこうでした)

「与党になったことがある」を「執政黨過」で表すなんて…。
しかも中央社というお硬めのメディアだったこともあり、余計衝撃でした。

漢字の読みが違う

中台では、声調や読み方が違う漢字が少なからずあります。
ここでは、そういった漢字や単語を思いつく限り列挙していきます。
たぶんここに書いている以上にもっとありますが、普段の生活でよく使うのはこんなもんかなと思います。

僕はピンインしか勉強したことがないので、台湾の読み方もピンイン表記します。

また、ここで書いている台湾の読み方は「台湾の辞書で調べると中国と同じだけど、皆んな習慣的にこう読んでいる」というものが多く含まれている可能性があります。

・傍晚
中国「bang4wan3」
台湾「bang1wan3」

・包括
中国「bao1kuo4」
台湾「bao1gua1」「bao1kua1
※台湾でも中国と同じように「bao1kuo4」と発音する人もいます。

・波浪
中国「bo1lang4」
台湾「po1lang4」

・步驟
中国「bu4zhou4」
台湾「bu4zou4」
※台湾はそもそもそり舌音が顕著ではないので、話したり聞いたりする分には問題ありませんが、携帯やパソコンでピンイン入力で繁体字を打つ時、「zou」と入力しないと変換できません。

・差(「悪い」という意味の時)
中国「cha4」
台湾「cha1
※「差不多」とかも同じです。

・常識
中国「chang2shi2」
台湾「chang2shi4

・法國
中国「fa3guo2」
台湾「fa4guo2」

・髮型
中国「fa4xing2」
台湾「fa3xing2」
※「洗髮精」とかも同じです。

・俄羅斯
中国「e2luo2si1」
台湾「e4luo2si1」

・攻擊
中国「gong1ji1」
台湾「gong1ji2

・和
中国「he2」
台湾「han4
※これは個人的に慣れるまで時間がかかりました。

・垃圾
中国「la1ji1」
台湾「le4se4
※中国で「ゴミを捨てる」は「扔垃圾(reng1 la1ji1)」ですが、台湾では「丟垃圾(diu1 le4se4)」です。

・期末
中国「qi1mo4」
台湾「qi2mo4」
※「學期」「期限」とかも同じです。

・企業
中国「qi3ye4」
台湾「qi4ye4」
※「企鵝」とかも同じです。

・傾向
中国「qing1xiang4」
台湾「qing3xiang4」

・微笑
中国「wei1xiao4」
台湾「wei2xiao4」

・危險
中国「wei1xian3」
台湾「wei2xian3」
※「危機」とかも同じです。

・攜帶
中国「xie2dai4」
台湾「xi1dai4」
※「攜手」とかも同じです。

・血液
中国「xue4ye4」
台湾「xie3yi4」
※中国・台湾とも「血」の習慣的な読み方は人によってバラバラな印象があり、個人的に少し厄介な漢字だと思っています。それにしてもこの台湾の読み方を知った時は衝撃でした。「協議」と混ざりそう…。

・研究
中国「yan2jiu1」
台湾「yan2jiu4
※「講究」とかも同じです。

・暫時
中国「zan4shi2」
台湾「zhan4shi2」
※台湾はそもそもそり舌音が顕著ではないので、話したり聞いたりする分には問題ありませんが、携帯やパソコンでピンイン入力で繁体字を打つ時、「zhan」と入力しないと変換できません

物の名前が違う

次は物の呼び方の違いです。
上の漢字の読み方と同じく、以下に挙げる以外にもたくさんあると思いますが、とりあえず今思いつくだけ列挙していきます。

必ずしも「中国/台湾は絶対この言い方!」というわけではなく、「どっちでも通じるけどこっちの名前で呼ばれることが多い」というのもあります。

・じゃがいも
中国「土豆」
台湾「馬鈴薯」
※台湾で「土豆」は「落花生」の意味です。紛らわしい…。

・キャベツ
中国「圆白菜」「洋白菜」「卷心菜」
台湾「高麗菜」
※中国ではたくさん呼び方があって迷いますが、台湾では基本的に「高麗菜」だけだと思います。

・パイナップル
中国「菠萝」
台湾「鳳梨」

・ポテトチップス
中国「薯片」
台湾「洋芋片」

・ヨーグルト
中国「酸奶」
台湾「優格」

・マヨネーズ
中国「蛋黄酱」
台湾「美乃滋」

・使い捨ての箸(割り箸など)
中国「一次性筷子」
台湾「免洗筷」

・ペットボトル
中国「塑料瓶」
台湾「寶特瓶」

・ビニール袋
中国「塑料袋」
台湾「塑膠袋」

・自転車
中国「自行车」
台湾「腳踏車」
※台湾で「自行車」と言うと、ロードバイクのようなスポーティーな自転車を指すようです。

・タクシー
中国「出租车」
台湾「計程車」

・バス
中国「公交车」
台湾「公車」

・地下鉄
中国「地铁」
台湾「捷運」
※これは厳密には、台湾の地下鉄が「捷運」という名前で呼ばれていると理解した方がいいと思います。他の国の地下鉄のことは、台湾人も「地鐵」と呼ぶ印象です。

・インターネット
中国「网络」
台湾「網路」

・動画
中国「视频」
台湾「影片」

・(パソコンなどの)ソフト
中国「软件」
台湾「軟體」

・外付けハードディスク
中国「移动硬盘」
台湾「行動硬碟」

・デジカメ
中国「数码相机」
台湾「數位相機」

・マウス
中国「鼠标」
台湾「滑鼠」
※台湾で「鼠標」と言うと、パソコンの画面に映っているマウスカーソルを指すようです。

おわりに

細かい違いは他にもあるんですが、全部書いていたらきりがないのと、良い実例が見つからなかったこともあり、とりあえずここまでとしました。
あとは僕自身がまだ違いに気づいていない(中国式を使い続けている)とか、既に自分が台湾式に切り替わっていること自体に気づいていないような違いもあるでしょう。

中国式からの切り替え中で慣れないうちは、こういう違いを目にする度に「これも違うのかよ!」とイラッとすることもあるかもしれません。

このブログをご覧になった方が、中国式と台湾式の中国語の違いについて大体のイメージを持つことができるようになって下されば幸いです。

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